大人の読書感想文。

30代独身女の読書感想文と頭の中。恋愛も仕事も中途半端な私が本を読みながら生き辛さと向き合います。

3冊目 ピアニシモ

こんにちは。白です。

 

今日はゆっくり読書感想文です。

 

三冊目は辻仁成さんの[ピアニシモ]。

 

私は小さな頃から本が好きでした。幼稚園の頃は恐竜大辞典を夢中で読んだり、『ニルスの不思議な冒険』にハマったり、『クレヨン王国』シリーズを片っ端から読んだり。3人兄弟の末っ子として生まれて、姉兄とは少し年齢が離れておりました。2人と一緒に遊ぶことは少なく、私は母と過ごすことが多かったのです。母は自宅でピアノ教室を開いていたので、私は一人遊びをする時間が多くなりました。その時間に、私を楽しませてくれたのが本だったのです。そして文字を書くことが好きで、新聞記者だった祖父から漢字や文の書き方を教わり、自分で絵本を描いてみたりすることを楽しんでいました。当時は賢い賢いと大人から持て囃されましたが、私はただの凡人でした。でも、三つ子の魂百までとはよく言ったもので、30を過ぎた私は今でも本を読んで、ブログを書くことで自分を楽しませているのです。

 

そんな幼少期だったからか、国語の授業が好きで得意でした。あまり成績は良くなかったし、勉強は好きでは無かったのですが、当時通っていた塾の、国語の授業は好きでした。そこで出会った先生が、私を更に読書好きにして下さいました。雑談の多い先生でした。本の紹介をしたり、印象的な新聞記事の一文を考察するような話をしてくれたり。いつも国語と繋がりのある、興味深い雑談をしてくれる先生で、大好きな授業でした。一番印象に残っているお話は、中学生が書いた遺書の話でした。

 

人生に対する、ぼんやりとした不満。

 

これが、とある中学生が書いた遺書でした。これに対する先生の感想や考察を、中学生の私達が楽しく聞ける範囲でラフに話してくれたあの授業。もう何年も前の話なのに私は覚えているのです。これ以上印象的な遺書を私は知りません。いまだに覚えているくらいですし、たまにこの言葉は私の頭を過ぎるのです。気持ちを言葉にする時に、あれもこれもと文字が増えてしまい、無駄が多くなり、結局伝えられないということがよくあります。この一文は、たった20文字以内で自分の思いを表現していると感じます。自分が遺書を書く時に、この言葉だけで終わらせられるとは到底思わないのです。でもこれだけで、彼か彼女の苦悩を私達は想像が出来るのです。そして私は、10年以上たっても忘れられないのです。

 

そんな先生が私に勧めてくださったのが、今回の本です。やっと本の話です。たくさんの本を勧めて頂いたのですが、一番初めに勧められたのがピアニシモ。なぜ私に勧めてくださったのかは相変わらず不明です。

 

辻仁成[ピアニシモ]

 

辻仁成さんは有名ですね。[冷静と情熱のあいだ]は映画化もされておりますし。そんな辻仁成さんのデビュー作。1週間で書き上げ、すばる文学賞を受賞したという作品です。1週間で書き上げた、というのも納得の、人の中にある孤独や不安や不満という感情を勢いに任せて書いたような、そんな作品でした。なので、じっくりと作り上げた物語が好きな人は、もしかしたらあまり好きではないかもしれません。生身の人間らしい文章が私は好きでした。好き、という言葉が当てはまるかも難しいですが、引き込まれた物語でした。1990年に出版された話なので、30年近く前の話ということになります。ピアニシモとは音楽用語で『きわめて弱く』。この物語の主人公はタイトル通り、きわめて弱い少年です。

主人公のとおるは、転勤族の父と宗教家の母との3人家族。彼は転校が多く、いじめを受け、家にも学校にも居場所が無いと感じる孤独な中学生でした。そんな彼の唯一の友達は『ひかる』。彼が大変曲者であり、この物語のキーパーソンであり、彼をどんな存在として受け取るかで、この物語の受け取り方も変わると思います。ひかるはとおるにしか見えない幻影。ひかるはいつも過激なことを言う。でも絶対にひかるは、とおるを肯定し続ける。そんな始まりの二人が、物語の中で少しずつ変わっていきます。孤独な少年とおるが創り上げた幻影のひかる。ひかるに依存して、世界との関わりを拒絶するとおる。ですが、とおるが伝言ダイヤルで出会った女性に恋をしてからは、とおるはひかるに対して疎ましさのようなものを感じる描写が出てきます。

私が感じたのはヒカルはただの幻影なのか。ということです。孤独を癒すだけの存在を創り上げた、主人公の弱さを表す存在だったのか。そうではなく、私達の中には必ず『ひかる』が存在しているのだと感じるのです。ひかるととおるの会話は、自分との対話をしているだけだったのではないかと思うのです。そして、思春期の自意識という、強烈な存在を、作者は『ひかる』として描いていたのではないかと思っています。だから外、つまり恋愛をしたことで自己以外のものに興味を持ったとおるは、ひかるを疎ましく感じたのでないでしょうか。

物語の最後にひかるはいなくなりますが、とおるの中には必ずひかるが存在し続ける。ひかるがいなくなることが『自立.成長』のような描かれ方もありますが、私はいなくなるとは思えないのです。ひかるもまた成長し、自分との対話は永遠に続く。大人になるにつれ、外の世界との関わりを作るにつれて、自分との対話をする時間は減るかもしれないけれど、決してなくならないと思うのです。

ハッピーエンドでは終わらないこの物語は、どうやら続編があるらしいことを最近知りました。まだ読んでいないので見つけたら是非読んでみたいと思います。

 

私はピアニシモという言葉が好きです。

きわめて弱い、でも美しい。

その美しいピアニシモの音色を出すのは難しい。

ピアノは叩けば音は出るけれど、美しい音を出すのは難しい。

ピアノの音は、本当に美しいのです。

 

 

この小説を読んだ頃に母から褒められた

 

 

『白ちゃんのピアニシモの音ってとっても綺麗。』

 

 

その言葉が嬉しくて、私はピアノを続けていたのです。

 

 

 

辻仁成[ピアニシモ]

この小説も『きわめて弱い』だけではなく、そこにある思春期の青々しい自意識の美しさも描かれているような、そんな気がするのです。

 

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